中途半端なコンセプトは誰にも刺さらない|「行きたい」企画の作り方

※本記事の事例は個人情報保護のため、詳細を変更しています。

展示会、テーマイベント、ポップアップ、ワークショップ。「いろんな要素を盛り込んだほうが、たくさんの人に来てもらえそう」と感じる方は多いのですが、実際は逆のことが起こります。混ぜれば混ぜるほど、誰にとっても「まあ行くか」になってしまう企画が出来上がります。

この記事では、生活雑貨のセレクトショップを営む方からの相談を例に、コンセプトを「絞る」だけでは足りない理由と、感情が動く切り口を作るための考え方を整理します。展示会・イベント企画だけでなく、ワークショップ・マルシェ・飲食イベントなど、業種を超えて通用する話です。


目次

相談背景:「全部混ぜたらどうなりますか?」

先日、生活雑貨のセレクトショップを営む谷口さん(仮名)と話をしました。

谷口さんはお店で定期的にテーマイベントを開きたいと考えていて、「北欧のものも好きだし、民芸品も好きだし、シンプルなデザインのものも好き。いろんなジャンルを混ぜた特集をやってみたい」と話していました。

筆者はこう返しました。

「全部混ぜたら弱くなりますよ」


課題:混ぜた企画は「まあ行くか」しか生まない

なぜ混ぜると弱くなるのか

人が「行こう」と決める瞬間には、求めている状態があります。

北欧のものが好きで探している人、修理の跡があるものに惹かれる人、小さいものに弱い人。それぞれが「ここに行けば、それがある」という確信を求めています。混ぜた企画は、この確信を薄めてしまいます。

確信が薄いと、「行くか行かないか」の判断が「まあ行くか」になります。確信があると「行かなきゃ」になります。この差は、企画の段階で決まっています。

「絞る」だけでもまだ弱い

ただ、ここで話は終わりません。

「『北欧展』にしたとして、それでもまだ少し弱いかもしれません」と続けたところ、谷口さんは「え、どういうことですか」と聞き返しました。

絞ること自体はスタートラインです。しかし「北欧展」というだけだと「北欧が好きな人が来るかな」で止まってしまいます。来る前から「行かなきゃ」という熱量になるかどうかは、企画の切り口がどれだけ感情を動かすかにかかっています。


対応:感情が動く切り口の例

「修理の跡があるものだけ展」「誰かが大切にしていたものだけ展」

たとえばこんなタイトルの企画はどうでしょうか。

企画タイトル 動く感情
修理の跡があるものだけ展 じんとする・手の物語が気になる
誰かが大切にしていたものだけ展 じんとする・前の持ち主を想像する
捨てられそうになったものだけ展 気になる・なんだこれと知りたくなる
小さい道具だけ展 たまらない・全部手に乗せたくなる

「北欧のもの展」と聞いたときと、「修理の跡があるものだけ展」と聞いたときでは、動く感情の解像度が全く違います。

感情が動く切り口の4パターン

感情が動く切り口には型があります:

  • 「たまらない」系:小さいもの・手仕事・丸いもの等。来た人が「全部欲しい」になる
  • 「じんとする」系:修理の跡・誰かが大切にしていたもの等。来た人がその前で立ち止まる
  • 「気になる・なんだこれ」系:捨てられそうになったもの・理由がわからず残っていたもの等。来る前から興味が動く
  • 「ぞっとする・怖いけど見たい」系:強いフックになる(ジャンルによる)

「○○かける何か」で考える

企画のコンセプトは「テーマ(○○)」だけでは弱いことが多く、そこに「感情の切り口(かける何か)」が加わって初めて動き出します。

「北欧のもの展」は○○だけ。
「修理の跡があるものだけ展」は素材やジャンルを超えて「使い続けた痕跡」というテーマを選んでいる。そっちのほうが感情の解像度が高いのです。


これから進むべきステップ:告知文を書く前の5つの問いかけ

谷口さんに最後に伝えたのは、告知文を書く前に自分に問いかける5つの質問でした。

  1. その告知を見た人が「行かなきゃ」と感じるか?「まあ行くか」のままか?
  2. 来た人が帰った後、誰かにそのことを話したくなる体験が生まれるか?
  3. タイトルだけで、その場の空気が少しイメージできるか?
  4. 「○○が好きでたまらない人」「○○にじんとする人」「○○が気になって仕方ない人」のどれかに、ぐさっと刺さるか?
  5. コンセプトを聞いた知人が「あ、それだったら行きたい」と言うか?(「行ってもいいかな」ではなく)

全部に答えが出なくて構いません。「行かなきゃ」になるかどうかを確認する習慣そのものが、企画の精度を上げていきます。

そしてもう一つ。こういう企画を繰り返すと、「あのお店、なんか変わった切り口の企画をよくやってる」という印象が積み上がります。これが「他じゃなくてここで買いたい」になる理由を作る。コンセプトは集客の装置でもあるけど、お店に来る理由を作り続ける装置でもあるのです。


一般化:他の業種・業態に当てはめると

この考え方は展示会だけでなく、業種を超えて通用すると思います。

飲食・食のイベント

「地元の食材を使ったディナー」は弱い。
「この街の農家さんが今年作った野菜だけのフルコース」になると少し絞れる。
「今年、農家さんが余らせてしまった野菜だけで作るフルコース」になると、感情が動く。

ワークショップ・教室

「ものづくりを楽しむワークショップ」は弱い。
「革小物のワークショップ」もまだ弱い。
「家にある革くずで財布を作るワークショップ」になると動く。「捨てるつもりだったものから何かを作る」という感情的フックが入っているからです。

地域のマルシェ・市

「地元の生産者が集まるマルシェ」は弱い。
「この街で何十年も続けてきた人だけのマルシェ」は少し絞れる。
「続けることをあきらめかけたことがある人だけのマルシェ」になると、来る前から物語が始まっている。


FAQ

Q. 絞ると来場者が減るのではないでしょうか?

A. 数が減る可能性はあります。ただし「来た人の熱量」が大きく変わります。混ぜた企画には「行ってもいいかな」の人しか集まらず、感想も薄くなりがち。絞った企画には「行かなきゃ」の人が集まり、買う・話す・また来るという行動につながりやすくなります。長期的にはお店のファンが育ちやすくなる構造です。

Q. 自分の業種で「感情が動く切り口」をどう見つければいいですか?

A. 自分が扱っているもの・場のテーマで、4つの型(たまらない/じんとする/気になる/ぞっとする)のどれが動かせるかを考えてみてください。すぐ出てこなくても、過去のお客さんの反応が「強かった出来事」を思い出すと手がかりになります。

Q. 切り口を考えるとき、避けたほうがいい言葉はありますか?

A. 「楽しむ」「学ぶ」「集まる」など、誰でも当てはまる動詞は感情の解像度が低いので注意が必要です。具体的なモノ・状態・出来事を表す言葉のほうが、感情が動きやすくなります。

Q. 1回の企画でうまくいかなかった場合、どうすればいいですか?

A. 1回で結果がでたらラッキー。でなくてやっとスタートライン。同じ路線で何回か続けることで、「あのお店、なんか変わった切り口の企画をよくやってる」という印象が積み上がっていきます。1回ごとの来場者数より、繰り返したときに残る印象のほうが大事に思えると良いかもしれません。

Q. 大規模イベントでも同じ考え方が使えますか?

A. 規模が大きくなるほど「全員に当たり障りない」設計に流れがちですが、根本は同じです。大規模イベントでも、ブースやコーナーごとに切り口を作ることで、感情が動く体験を分散して配置できます。


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