「全部自分でやろう」が本業を止める|手放して集中する小さな事業の考え方

ウェブも経理も、ぜんぶ自分でできるようにならなきゃ——そう思って手が回らなくなっている個人事業の方へ。「全部できる」を目指すより、自分にしかできないことだけ残して手放す。本業のエネルギーを守る考え方を、相談の現場からお話しします。

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「いっぱいいっぱいなのに、新しいことを覚えようとしている」

一人で事業をやっている方と話していると、よく出会う場面があります。

本業はちゃんと持っている。腕もある。お客さんもついている。なのに、本人がすり減っている。理由を聞いていくと、本業そのものではなく、その周りにある作業——ホームページの更新、SNSの投稿、領収書の入力、予約の管理——に時間とエネルギーを吸われていることが多いのです。

そういう方が、さらに「ホームページを自分で作れるようになろう」と言い出すことがあります。気持ちはとてもよく分かります。外に頼むとお金がかかるし、自分でできれば自由がきく。でも、すでにいっぱいいっぱいの状態で、本業ではない作業をゼロから習得しにいくと、たいてい途中で止まります。そして「やっぱり自分はこういうのが苦手だ」と落ち込んで、もとの忙しさに戻っていく。

私はこういうとき、少し立ち止まってもらいます。「それ、本当にあなたが覚えないといけないことですか」と。

「全部できる」は、目的ではなく手段のはず

ここで一度、整理したいことがあります。

事業をやっていると、「全部自分でできるようになる」こと自体が、いつのまにか目的になってしまうことがあります。でも本来それは手段です。目的は、お客さんに価値を届けて、事業を続けていくこと。だとすると、自分が時間を使うべきところは、「自分にしかできないこと」のはずなんですね。

身体をみる施術でも、料理でも、ものづくりでも、本業の中心には「その人にしか出せない価値」があります。そこは外注できません。逆に言うと、それ以外の——ウェブの組み立て、経理の入力、事務の連絡——多くは、必ずしも本人がやらなくてもいい作業です。

私はよく、こう聞きます。「あなたが寝ても覚めても考えるべきなのは、ホームページの作り方ですか。それとも、目の前のお客さんにどう向き合うか、ですか」。たいてい、答えははっきりしています。

手放す、というのは「丸投げ」ではない

とはいえ、「じゃあ全部外注すればいいんですね」と受け取られると、それはそれで危ういのです。

手放すことと、丸投げすることは違います。中身を何も分からないまま全部を人に渡してしまうと、何かあったときに自分で判断できなくなる。費用も読めなくなる。だから私がおすすめするのは、要点だけは自分で分かっておいて、作業は手放す、という形です。

たとえば経理なら、地域の支援機関で記帳の基礎指導を受けて、「自分の数字がどう動いているか」だけは分かる状態にしておく。そのうえで、実際の入力作業は外に出す。こうすると、判断は自分の手元に残しながら、手は空けられます。学ぶところと、手放すところを、分けて考えるわけです。

世の中には、事務やウェブを部分的に任せられるチーム型のサービスもあります。月に十時間ほどで、二万円台後半から、といった規模のものです。経理の入力、ホームページの移行、予約の管理、チラシの作成といった作業を、必要なぶんだけ渡せる。人を一人雇うと「仕事を作らなきゃ」というプレッシャーが生まれますが、こういう形なら、必要なときに必要なだけ頼めます。

ただ、これも「これがベストです」と言いたいわけではありません。事業者によって、使える時間も、かけられる費用も、覚えることへの向き不向きも違います。学習コストを払ってでも自分でやり切ったほうが合っている人もいれば、そこは手放して本業に振り切ったほうが合っている人もいる。その人の手札を見て、「あなたの場合はこっちが通りやすいですよ」と一つ提案するだけです。

ツールも「最強の一本」では選ばない

ホームページを作り直す、という話になると、「どのツールが一番いいですか」と聞かれます。

正直なところ、これにも唯一の正解はありません。たとえば、自由度が高くて自分で組み上げる前提のものは、慣れれば応用が利きますが、最初の習熟に時間がかかります。逆に、最初から完成度が高くてデザインが整っているものは、早くきれいに仕上がる代わりに、決められた使い方から外れると途端に窮屈になります。

どちらが正解かではなく、自分がどれくらい手間をかけられて、どんなふうに運営していきたいか。それで選び方が変わります。外注で進めるなら、任せる相手が扱い慣れているもののほうが、結局は早くて安く済んだりもします。ツール選びも、性能の比較ではなく、自分の状況からの逆算なんですね。

まず考えてほしい順番

整理すると、進め方はこういう順番になります。

  1. 自分にしかできない本業の中心は何かを、一度はっきりさせる。そこに自分の時間を残すと決める。
  2. 本業の周りにある作業(ウェブ・経理・事務・予約管理など)を、紙に書き出してみる。
  3. そのうち、「要点だけ学んで指示すればいいもの」と「自分でやり続けたいもの」を分ける。
  4. 手放すと決めたものは、外注やサービスに渡す。ただし判断のための要点だけは自分で分かっておく。
  5. ツールや進め方は「最強の一本」ではなく、自分の手間・費用・運営スタイルから選ぶ。

この順番で考えると、「何でも自分でやらなきゃ」という思い込みが、少しずつほどけていきます。

一般化すると、これは時間の使い方の話

業種が違っても、この話はそのまま当てはまります。

一人で事業を回している人にとって、いちばん希少な資源は時間とエネルギーです。それを、自分にしかできないことに集中して使えているか。それとも、誰でもできる作業に、少しずつ削られていっているか。事業がうまく回り始める人は、たいてい前者です。

「全部できるようになる」ことは、立派なことです。でも、それを目指すあまり本業がおろそかになるなら、順番が逆かもしれません。できることを増やすより、手放せることを増やす。そのほうが、本業に向き合う余白が生まれることがあります。

よくある質問

Q. 外注すると、自分のスキルが育たないのではないですか。
A. 全部を丸投げするとそうなります。だからこそ、要点だけは学んでおいて、作業を手放すのがおすすめです。「分かったうえで任せる」と「分からないまま任せる」は、別ものです。

Q. お金をかける余裕がありません。それでも手放したほうがいいですか。
A. 費用が厳しいなら、まずは「自分でやり続けるもの」を多めに残して構いません。大事なのは、一番エネルギーを奪っている作業を一つだけでも手放してみることです。全部か、ゼロか、ではありません。

Q. どの作業から手放せばいいか分かりません。
A. 「やるたびに気が重くなるもの」「本業と関係がうすいのに時間を食うもの」から考えてみてください。多くの場合、経理の入力やウェブまわりが最初の候補になります。

Q. 地域の支援機関は、どう使えばいいですか。
A. 記帳の基礎指導や、専門家に相談できる仕組みを持っているところがあります。年に一万円ほどの会費で、年に何度か専門家を呼べることもあります。まずは近くの窓口に「何が使えますか」と聞いてみるところからで十分です。


※本記事は実際の相談現場で出会う「よくあるパターン」をもとに構成したフィクションです。
登場人物・店舗・地域・数字などの具体設定はすべて創作であり、特定の個人・事業者を指すものではありません。

この記事は、静岡県を中心に小規模事業者の相談を受けている「コモンズ」が、相談現場での気づきをもとにお届けしています。あなたの事業の手札に合わせた進め方を一緒に考える、対話のセッションも行っています。

※本記事の内容は情報提供を目的としています。ご利用はご自身の判断と責任のもとで行ってください。© コモンズ

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