ツールが増えるほど、たった1件の問い合わせに何倍も時間がかかる。情報が散らばって仕事が回らないと感じたとき、新しいツールを足す前に何を整理すればいいのか。現場仕事を回す方と話して見えてきたことを書きます。
「ちょっと確認するだけ」が、なぜ2時間かかるのか
現場を複数人で回している事業の方と話していると、こんな話をよく聞きます。
「ちょっとした問い合わせが1件入って、答えるだけのつもりが、気づいたら2時間近く経っていた」
なぜそんなに時間がかかるのか。理由を聞いていくと、たいてい同じ形にたどり着きます。予定はカレンダー、現場の写真は別のアプリ、お客さんや職人とのやり取りはチャット、報告は別の管理アプリ。1件の問い合わせに答えるために、その全部を順番に開いて、行ったり来たりしている。しかもその最中に電話が鳴り、チャットの通知が来る。集中が切れて、また最初のアプリに戻る。
これは、その人の段取りが悪いわけではありません。情報が散らばっているから、本来5分で終わる確認に、何倍もの時間がかかってしまう。道具が増えたぶんだけ、探す場所が増えているのです。
「全部を1か所に入れる」は、なぜ続かないのか
こういうとき、多くの方が一度は「カレンダーに全部入れればいい」と考えます。受注した案件も、職人の割り振りも、工程も、全部ひとつのカレンダーに書き込む。
ところが、たいていうまくいきません。造園や外構のメンテナンスのように、10人ほどの職人がいて、現場ごとに人を割り振るような仕事だと、ひとつのカレンダーに全員ぶんの予定を入れた瞬間に、見るのが嫌になるほどごちゃごちゃになります。
だから結局、「足場の組み立てと解体だけ」「植栽の入れ替えだけ」というように、ごく一部しか入れなくなる。すると今度は、受注したのにまだ誰にも振っていない案件が、どこにも見えない状態になる。これが「振り分け漏れ」の正体です。
カレンダーは予定を見るための道具で、案件のすべてを管理するための道具ではありません。役割の合わない道具に全部を背負わせようとすると、必ずどこかで破綻します。
私がまず整理するのは「情報の置き場所」
私がこういう相談でまず一緒にやるのは、新しいツールを導入することではありません。「どの情報を、どこに置くか」を決め直すことです。
順番としては、こんな整理をしていきます。
- いま情報がどこに散らばっているかを、一度ぜんぶ書き出して一覧にする
- それぞれの道具に「何のための場所か」という役割を決める(予定を見る場所、写真を残す場所、お客さんごとの情報をまとめる場所)
- 「この情報を見たいときは、ここを開く」という動線を1本に決める
- 職人さんや業者さんにも、「この話をするときはここを見てください」と共有できる形にする
派手な作業ではありません。私はよく「お茶を片付けるように整理整頓するだけです」と言います。けれど、これをやるだけで「あれ、どこだっけ」と探す時間が驚くほど減ります。新しい道具の前に、まず情報の住所を決める。これが出発点です。
いきなり「全部を自動でつなぐ」をやらない理由
整理の話をすると、「じゃあ、ツール同士を全部自動で連携させて、入力も一回で済むようにしたい」という方向に行きたくなります。気持ちはとてもよく分かります。
ただ、私はここで一度ブレーキをかけます。
最初からシステム同士をがっちり自動連携させてしまうと、どこかでエラーが出たときに潰しが効かなくなる。連携が複雑なほど、止まったときに「どこで何が起きているのか」が分からなくなり、取り返しがつきにくくなります。
なので私が先にやるのは、自動化ではなく「手動でもちゃんと回る業務フロー」を作ることです。この情報が入ったら次に何をするのか、それは人がやるのか、外に頼むのか。その流れを一度きれいに描く。回ることが確認できてから、そのなかで「ここは自動にしても安全だ」という部分だけを、少しずつ機械に任せていく。
順番が逆だと、便利にするはずの仕組みが、かえって新しいトラブルの種になります。
「人を減らす」前に、仕事を切り分ける
情報が散らばって回らない、という相談は、たいてい「事務をしていた人が辞めることになって」というタイミングで出てきます。人手が減るからこそ、業務をスリムにして、一部は外に頼みたい。自然な流れです。
ここで私がお伝えするのは、外注を考える前に、仕事を4つに切り分けてみてください、ということです。
– すぐに誰かへ任せられる仕事
– 少し教えれば誰でもできる仕事
– 専門的な知識が必要で、内部の人がやったほうがいい仕事
– 自分(経営者)が必ず握っておくべき仕事
このうち外に出しやすいのは、上の2つです。情報を決まった場所に入力していく、写真を所定の場所に保存する、といった単純な作業は、オンラインアシスタントのようなサービスにお願いしやすい。逆に、まだ手順が固まりきっていない複雑な仕事を、いきなり「これはやって、これはやらないで」と切り分けて外に出すと、かえってぐちゃぐちゃになります。
だからこそ、先ほどの「情報の置き場所と業務フローの整理」が効いてきます。流れがはっきりしているほど、切り出せる仕事が見えてくるからです。
これから整理する人が、最初に考えること
もし今、情報が散らばって仕事が回らないと感じているなら、いきなり新しいツールを探しに行く前に、次の順番で考えてみてください。
- いま、情報がいくつの場所に散らばっているかを書き出す
- それぞれの道具の「役割」を一言で決める(兼用させすぎない)
- 「これを見たいときはここ」という動線を1本に絞る
- 手動でも回るフローを作ってから、安全なところだけ自動化する
- 単純で切り出しやすい仕事から、外に頼むことを検討する
大事なのは、最初から完璧な仕組みを目指さないことです。テストで作ってみて、合わなければ捨てればいい。身軽に試せる状態を保つほうが、結果的に早く楽になります。
一般化すると
これは造園や外構の現場に限った話ではありません。複数の人と、複数の道具で、案件を回しているすべての仕事に当てはまります。
ツールを増やすほど便利になる、というのは半分しか正しくありません。置き場所と役割を決めないままツールだけ増やすと、情報は散らばり、探す時間が増え、いちばん集中したい仕事の時間が削られていきます。
道具を足す前に、情報の住所を決める。そして、いきなり全部をつなごうとしない。順番を守るだけで、同じツールでも仕事の回り方は変わります。
よくある質問
Q. 結局、Notionのようなツールを入れれば解決しますか?
ツールはあくまで「置き場所」を作るための手段です。どのツールが正解かは、すでに使っている道具・人手・学習にかけられる時間といった、その事業の手札によって変わります。新しいツールを入れること自体が目的になると、また一つ「散らばる先」が増えるだけになりかねません。まず役割と動線を決めるのが先です。
Q. ツール同士の自動連携は、やらないほうがいいのですか?
やってはいけない、ということではありません。順番の問題です。手動でも回る業務フローができてから、安全な部分だけ自動化する。最初から全部を自動でつなぐと、止まったときに原因が分からなくなり、かえって手間が増えます。
Q. 外注は何から頼めばいいですか?
手順が固まっていて、単純な作業から頼むのがおすすめです。決まった場所への入力、写真や書類の整理といった仕事は外に出しやすい。逆に、まだ流れが定まっていない複雑な仕事は、自分の側で整理してからのほうがうまくいきます。
Q. 全部を一気に変えないと意味がないですか?
いいえ、むしろ一気に変えないほうがうまくいきます。まず情報の置き場所を整える、次に動線を1本にする、そのあとで切り出せる仕事を外に出す。段階を分けて、合わなければ戻せる状態で進めるのが安全です。
※本記事は実際の相談現場で出会う「よくあるパターン」をもとに構成したフィクションです。
登場人物・店舗・地域・数字などの具体設定はすべて創作であり、特定の個人・事業者を指すものではありません。
本記事は、創業・経営の相談窓口「コモンズ」での相談経験をもとに構成しています。



